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LiDARの普及がソフトウェア定義型ハード(=車)と自動運転を加速させるこれだけの理由
次世代LiDAR「4Sight」を武器に日本での展開を強める理由
自動車以外の“静的”な運用も視野に
「次の10年でソフトウェア定義型のハードが出現する」
「EVメーカーでLiDARを入れたがらないのは一社だけ。理由は(既存モデルを仕様変更するには1台あたり)1万5000ドルぐらいかかるから。だからリコールせずにフル・セルフ・ドライビングを実現できない。
OEM(からの引き合い)はかなりあるし、他(のEVメーカー)はすべて、信頼性の高いシステムであれば、採用したがっています」
これは昨年末、米国AEye社の共同創設者であるGMオートモーティブのジョーダン・グリーン氏が、日本での同社オフィス開設を機に行った記者会見で、名指しこそ避けつつも際どくも述べた内容だ。
AEye社(ティッカー:LIDR)は2021年8月にNASDAQ上場を果たし、当初より日本や韓国へのオフィス開設に意欲を示していたが昨年内に間に合わせ、2023年以降を普及フェイズと捉えている。
「LiDAR」とは周知の通り、LightDetectionandRangingもしくはLaserImagingDetectionandRangingの略。照射したパルス状レーザーの反射時の位相角ずれを検出することで、離れた対象の性質や距離を分析するテクノロジーだ。
身近なところではiPhoneに搭載される3Dスキャン機能や、ゴルフの測距計もLiDARの応用例だ。CMOSセンサーカメラやミリ波レーダーと並んで「自動運転の三種の神器」と称されるセンシング・テクノロジーのひとつであり、最期の1ピースともいわれている。
◆次世代LiDAR「4Sight」を武器に日本での展開を強める理由
AEye社が日本での展開を強める理由は、同社の次世代LiDARである「4Sight」が唯一のソフトウェア定義型プラットフォームかつAIベースのシステムで、インシデントの検出が飛躍的に向上するからだ。
インシデントとは、予想できない事態とか人間の目が見逃しがちなもので、例えばトンネル内に転がった小さな障害物や、道を突然横切ろうとする歩行者といったものだ。
「第一世代のLiDARはカメラやレーダーのようになろうとしていた。
スペックや性能ではなく、その用途や目的を説明したかった」と、AEye社のブレア・ラコルテCEOはふり返る。
当初のパッシブ型のLiDARはクローズドのハードウェア内で組み込まれたソフトウェアが信号処理を行って生成したデータや値を、車載アプリや認識ソフトウェアに送るといった具合だった。
ところが今回の新たなプラットフォームの革新性は、ソフトウェア定義型のアダプティブ(適応型)LiDARであり、Aiによって習熟度も深められるといった点にある。
すでに4Sightプラットフォームを用いたADAS用のLiDARモジュールとして昨年、コンチネンタルが「HRL131」を開発しており、会場には生産サンプルが展示されていた。
そもそもLiDARの構成要素は、パルスレーザーを発光かつ走査させるのみならず、受光素子や検出機器までの光学系、さらには位置や慣性情報を加味するなど、技術的に多くの要素があるが、ハードウェアの一部に過ぎないそれらの性能に注目が集まる傾向が強かった。
AEye社が次世代LiDARプラットフォームとする4Sightは、カメラやレーダーといった他のセンサーからのトリガーもOTAによるアップデートも受けつけられるし、車載側のアプリや認識ソフトウェアからもたらされる車両情報・アセット情報とインタラクティブなやり取りができる、そもそもから開かれたモジュールだ。
平たくいえば、インテリジェント処理のできるアダプティブなLiDARセンサーなのだ。
「だからスペック的には、最大で1平方メートルあたり6万点をセンシングしますが、ハードとアプリの組み合わせによりけりで、むしろソフトウェアでカスタマイズできるところが特長。
複雑なパラメーター設定をソフトウェア側に置いたこと、ロバスト性の高いモジュールとしたことが、我々の強みなのです」
これによって様々な使用ケースに対し、あくまでソフトウェアによる構成のみで、パフォーマンスを向上させることが可能になるという。
創設者でCTOのルイス・デュソン氏はこう説明する。
「最適なロボットビジョン・システムは、人間の目や視野より優れた性能を発揮する必要があると考えています。それはスキャン時にシーン内でもっとも重要な情報に焦点を合わせること。それこそがソフトウェアとAIが駆動するセンシングシステムなのです」
◆自動車以外の”静的”な運用も視野に
乗用車のフロントグリルから物流トラックのルーフ前端まで、搭載位置の高さにもよるが、現状で4Sightの前方検出可能距離は、200~400mに及ぶという。いわばLiDARとしてADAS用途の要件に対して、十分なスペックをもつコンチネンタル製HRL131というモジュールを歩留まりよく供給することはできるが、残されたブレイクスルーポイントは自動運転レベル3から4以上の運用ロジックであり、ハードウェアの大量生産の問題であり、そこはティア1サプライヤや自動車メーカーの領域という認識だ。
ゆえにAEye社は、開発したプラットフォームが市場に素早く届くための時間短縮という目的もあるが、プラットフォームやライセンスの販売とサポートをするのみで、車載モジュールとしてのハードウェアコンポーネント生産には手を出さない。
ハードの生産や供給、ソフトウェア・プログラムの開発といった部分は、コンチネンタルの他にアイシンやLGエレクトロニクス、ヘラといったティア1、GMヴェンチャーズやスバルSBらOEMという、元より自動車業界の色が強い戦略的パートナーに任せている。
日本型の垂直統合産業では奇異に映るかもしれないが、オーディオの世界でドルビーラボラトリーズが、再生機器やスピーカーといったハード生産を手がけない例を思えば、合点がいくだろう。
ちなみにAEye社は4Sightが、物流網におけるハブtoハブ間のトラック、あるいは一般乗用車といった移動体に搭載されて動的に運用されるのみならず、スマートインフラやスマートシティのために固定で用いられ、静的に運用されるケースをも想定している。
「外界を正確な3D認識で捉えることが、LiDARに可能でカメラには不可能なこと。例えば港湾地区でクレーンに搭載して、コンテナ積み下ろしの安全確保といった用途も考えられます。また道路上に数百mおきに設置して別のデータと組み合わせ、数車線を監視するといったことも可能です。ひとつのLiDARセンサーで5車線以上をカバーできますが、実際にトルコの高速道路ではすでに通行料の収受に用いられています。あるいは市街地で、歩行者を立方体として検知して、いつ信号を変えるかといった制御も。これも単一プラットフォームでITSアプリケーションによって可能です」
と、GMインダストリアルのブレント・ブランチャード氏は説明する。LiDARならではの高品位な検出と3Dベースのデータは、インフラ投資を進める地方自治体や日本の商社とも、ソリューションを提供できるという。
◆「次の10年でソフトウェア定義型のハードが出現する」
NASDAQ上場した当初より、日本への進出を強調していたブレア・ラコルテCEOは、来たる数年で膨れ上がることが予想されるLiDARの市場規模とは別のところで、次のようにも述べた。
「1980年代以降、日本の製造業はインパクトを与え続けており、それ抜きにここ数十年の革新はなかったと思います。QRコードやスチームクッカーが、人々の行動にどれだけ変容をもたらしてきたか。2000年代以降は、IoTという大きな革命が起きて、静的な世界の中でインテリジェンス情報が対象物を動かす、あまつさえ動きながら決断をして動かす、そういう時代です。次なる10年間で人類史上で起きる興味深いこととは、ソフトウェア定義型のハードが出現すること。その時、我々は日本のメーカーの優先的なパートナーになりたいと考えているのです」
いわれてみればポリバレントとかヴァーサタイルをウリに、限りなくコモディティ化した今日の車を、安全によりよく走る・動かすためには必要になるけど足りないのは、情報工学上の意味だけではない色々な意味での「インテリジェンス」だ。
未来が意外と具体化し始める、それが2023年の主要トーンといったら大袈裟かもしれないが、ライトモチーフにはなる、それぐらいの覚悟は要りそうだ。