ソフトウェア定義型自動車ビジネスモデルを取り入れる
モビリティの分野では、今やソフトウェアが重要な役割を担っています。マイカー、ライドシェア、乗合バス、トラックなど、モビリティのエコシステム全体でソフトウェアが中心的な要素として著しく普遍的なものになってきているのです。そして、このことがより顕著に表れているのが、乗用車の市場です。
自動車の所有者は従来、5~7年ごとに買い替えをしていましたが、ソフトウェアアップグレードの出現により、その周期が大きく変わりつつあり、今後はかなり長くなっていくことが予想されます。
自動車の買い替え頻度が減ることは、一見すると業界にとって危険信号のように思えるかもしれませんが、この進化は消費者とメーカー双方にとって大きな利益をもたらすでしょう。今日の技術の進歩により、自動車は時間とともに価値を増し、自動車の寿命が尽きるまで自動車メーカーに継続的な収益をもたらす可能性があります。
これはソフトウェア定義型自動車ビジネスモデルと呼ばれます。そこでは消費者は、新しいモデルを購入しなくても、ほとんどの電子機器の基本ソフトウェアが定期的に更新され、新しい機能や特長が追加されることを期待するようになります。
これは、スマートフォン、テレビ、冷蔵庫、時計など、一般的な電子機器に広く当てはまります。インターネットに接続された機器であれば、ソフトウェアによるサポートが期待されます。
その期待は、ついに自動車市場にも及び、消費者は新型車を直接購入する代わりに、付加価値のある機能をアンロックするためのOTA(Over‐The‐Air)ソフトウェアアップデートのサブスクリプションに加入することに抵抗がなくなっています。
自動車メーカーは新たな収益源を確保し、サプライチェーンへの依存を減らすことができ、消費者はより高い満足度を得て、そこからブランドロイヤリティがもたらされます。まさにWin-Winの関係です。
テスラのOTAサービスは、米国で最もよく知られていますが、最近では他のメーカーもこの動きに加わっています。フォルクスワーゲンは今月初め、Cariadと呼ばれる新部門で近いうちに自律走行機能を従量制で提供する可能性を示唆しました。
BMWはさらに一歩進んで、シートヒーターを月額のオプトイン機能として試験販売する意向を表明しています。
こういったソフトウェア定義型製品へのシフトは、従来の自動車ビジネスモデルを覆し、ソフトウェア開発を業界の最前線に押し上げることになります。
これらの自動車では、長寿命の半導体部品がますます当たり前となり、メンテナンスの必要性を減らして自動車の寿命を延ばすと同時に、内部の部品点数を指数関数的に縮小しています。
一方、平均的な新車には、すでに約1億行のコードが組み込まれています(ボーイング787ドリームライナーの7倍近くに及びます)。
これらをまとめると、ソフトウェアが自動車の性能向上と収益創出の最も重要な源泉となり、ソフトウェアベースのサービスが寿命の延長によって生じる収益ギャップを埋める位置にあることは明らかです。
ソフトウェアの重要な役割は、移動中のアプリケーションが豊富なモビリティ全体にも広がっています。ソフトウェア主導の車載技術により、公共交通機関は車両の故障に影響する事象をリアルタイムで監視することができます。規制当局や運行団体は、ソフトウェアがもたらす効率性の向上に注目しています。
Stellantisは自社のソフトウェアサービスとサブスクリプションが年間225億ユーロを生み出すと予測しており、モルガン・スタンレーのアナリストは、テスラにとって、実際に販売するハードウェアよりもソフトウェアのサブスクリプションから得られる利益の方が大きいと推測しています。基礎となる技術によって可能である限り、「GO」サインがでています。
LiDARは、消費者の購買意思決定につながる自律走行と安全アプリケーションの鍵であるため、これは自動車のビジネスモデルにおいて最も重要なコンポーネントとして位置づけられています。高速道路の自動運転はフラッグシップ製品ですが、その他の潜在的な機能のリストも豊富です。
たとえば、対向車が近づくと自動でロービームになるヘッドライトについて考えてみましょう。ソフトウェアのアップデートによって、ヘッドライトのようなハードウェアをサブスクリプションサービスにできます。この種のアンロック可能な機能によって、自動車メーカーは新たな高みに到達できます。
アップルは、ハードウェアだけでなく、補完的なサービスやサブスクリプションを提供することで、1兆ドル規模の企業に成長しました。自動車会社は今、同じようなモデルを採用する機会を得ています。このシフトにより、OEMは新しいサービスや機能を段階的に追加していくことを創造的に考えるようになるでしょう。これは大きな変化ですが、最終的には安全性を高め、消費者に付加価値を提供するために必要な進化でもあるのです。